中東書記(聖書と呼ばれる書き物)を読まない男、紙様にぼやく

本、新聞などの記事について もごもごと感想を書きつつ、どこぞのカルト宗教に取り込まれてしまった方々についてぼやいております。

「できそこないの男たち」を読む

できそこないの男たち (光文社新書) : 福岡 伸一 : 本 : Amazon

こいつは林真理子のエッセイでも村上龍の小説でもない。

生物学者の書いた、生物学的に見た「男」の話だ。

 

著者は福岡伸一氏。ずいぶん前に「生物と無生物のあいだ」という本を出して話題になっていたはずだ。

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その福岡氏が男、もしくはオスとよばれるものがどのようにして発生するのか、どのようにしてオスになるのか、をできるだけ優しく、そこに至るエピソードもからめながら説明してくれる。

何よりも大切なことは、「オスは、メスから発生する」ということだ。

中東書記では、最初に男性が作られ、そのあばら骨から女性が作られた、ということになっているが、実際の発生はそうではない。最初に女性のような体(特に生殖器)が発生の段階で次第に男性化していくのだ。

また、生殖器の形態を観察すると、(ここでは人間として)男の生殖器が、乱暴な表現をすれば、ひどくやっつけ仕事で作られているんだそうな。その証拠として、女性には性行為をする穴と排泄(小)をする穴が違うのに、男性は同じ穴から精子を出し、尿も出す。そして男性器の裏側には、穴を塞いだなごりの筋が残っていることを挙げている。

 

著者は有名な詩人の言葉をもじって

「人は男に生まれるのではない、男になるのだ」と書いている。
そう、発生学的には元々女性だったものが男性になるのだ。

 

そしてこんなことも書いている。

「アダムがその肋骨からイブを作り出したというのは全くの作り話であって、イブたちが後になってアダムを作り出したのだ、自分たちのために。」

この本にはアリマキ(アブラムシ)も引き合いに出されている。アリマキは基本的にメスだけで子供を産める。オスなしで子供が作れるというのはオスメスがいないと子供を作れない人間よりも優れているような気がする。

そんなアリマキも、冬の前に急にオスを産む。オスはメスの遺伝子、通常は2本で一組のものが1本しかない、「できそこないのメス」として生まれる。そして通常のメスがそのできそこないのメスと交尾し、卵を産む。

メスだけで子孫が作れるのにわざわざオスを作って卵を作る必要など・・・と思う人もいるだろうが、この交尾(オスの精子とメスの卵子の結合)によって、わずかながらの変化が生まれる。この変化によって、将来の環境の変化に適応できる可能性もあるのだ。形質の変わらない集団は、周りの変化で全滅することもある。その最悪の事態をかわすために、多少のリスクはあるものの、オスとメスによる受精卵作成という道を選んだというのだ。

 

他にも様々なエピソードが紹介されているので、下手な感想文を真に受けるより、実際に読んでみるほうが何倍も面白いと思う。

ただ、本を読んで「男はできそこないでろくでなしの生き物なのさ」と思うこともない。メスが必要に迫られて「オス」を作ったのだから、我々男は必要な存在なのだと胸を張ってもよいのではないか?

 

とはいえオスを作り出したメス、おっと女性には基本的には感謝しなければならない。日頃妻に感謝の意を表さないオスがこんなことを書く資格などないが。