救世主の再臨
会衆のS姉妹が妊娠した。
婚約者のK兄弟は彼女と性交渉をした覚えはない。
K兄弟は「これは処女受胎だ!」とS姉妹の妊娠を祝福した。
喜んで長老に報告すると、彼女と共に第二会場に導かれた。
「K兄弟、あなたは本当にS姉妹と肉体的な交わりを持っていないのですか」
「はい、手をつないだのも4回しかありません」
「S姉妹、あなたは本当にK兄弟と肉体的な交わりを持っていないのですか」
「・・・・・」
「J長老、S姉妹は清い身体です。◯ホバの名において誓います。私たちは肉体的な交わりをしていません」
次の集会の日、S姉妹とK兄弟は排斥を言い渡された。◯ホバの◯人に「ふさわしくない」との理由だった。
K兄弟は長老団に抗議した。しかし長老団は彼を冷たくあしらった。
長老団にならって、今まで親しく声をかけてくれていた兄弟姉妹が目も合わさなくなった。
「S姉妹はキリストを授かったんですよ。何もしていないのに子供ができたんですよ。これが奇跡でなくて何なんです?」
兄弟姉妹らはそそくさと立ち去っていった。
K兄弟は◯老名の本部にまで出向き、会衆の長老について訴えた。
しかし本部の受付嬢は
「御用の方はあらかじめアポを取って頂けませんか」とにべもない。
S姉妹は何回か集会に出でていたが、その後自宅にこもりきりになった。
K兄弟の訪問をも拒否した。
S姉妹の母親がインターホン越しに
「申し訳ありません、Sは体調がすぐれないのでしばらくK兄弟に会うのは控えさせてください」と一言。
K兄弟はそれでもS姉妹を心配し、毎日家に通った。そのうちインターホンのボタンを押しても誰も出なくなった。
そして集会にS姉妹のご両親も出席しなくなった。
K兄弟は、S姉妹の世話が忙しいのだと思い、S姉妹の健康を◯ホバに祈った。
何ヶ月か後、突然自宅の電話が鳴った。
S姉妹の母親からだった。
「Sが産まれた赤ちゃんと消えてしまったの。K兄弟、あなた何か知らない?」
「え、僕らの子供が生まれたんですか?」
「あなたの子供なんかじゃないわ!Sはどこ?知らないの?」
「Q姉妹、子供は男の子だったんですよね?」
「女の子よ。そんなことよりあなたSのこと知らないの?」
S姉妹が行方不明になってからしばらくして妙なうわさが立ち始めた。
「最近研究生のJさん集会に来ないわね」
「S姉妹と駆け落ちしたらしいわよ」
K兄弟は今も集会に出ている。そして彼一人だけが救世主(=S姉妹の子供)を待ち続けている。
彼の排斥が解ける兆しはない・・・・・