中東書記(聖書と呼ばれる書き物)を読まない男、紙様にぼやく

本、新聞などの記事について もごもごと感想を書きつつ、どこぞのカルト宗教に取り込まれてしまった方々についてぼやいております。

お母さんは神様とおともだち!4

おしゃれなレストランの窓際のテーブルに、背広姿の中年男性と女子高生が向かい合って座っている。

趣向をこらした料理が並ぶテーブルの中央に、小さなケーキと何本かのロウソク。

 

 

父   理香、16歳の誕生日おめでとう。

理香  んんん・・・ん、あ、りがとう。

父   ?

理香  (少しもじもじしながら)どうもまだ慣れないな・・・

    違和感というかこそばゆいというか。

父   再会してからまだ4回目だしな。気にしなくていい。

理香  ううん、別に緊張しているわけじゃないから。

父   ああ、そうか・・・すまん。

理香  うれしいんだよ、とっても。お父さんに会えてホントによかった。

父   2年前、ブログにコメントをもらってから半年ほどやりとりしていたんだが、二世の女子高生が理香だとは告白されるまで気づかなかった。

理香  私も。お父さんと境遇の似ている人だなあ、って親近感が湧いてコメントしたんだけど、まさか本人だったなんてねー。

父   偶然とアメブロに感謝しないといかんな。

理香  奇跡的だよね。

父   ・・・・・奇跡ってのは人間が思うほど奇跡的じゃあないと思うがね。

理香  ???

父   宝くじ1億枚の内に1枚だけある1等賞を当てるにはどうしたらいいと思う?

理香  うーん、タイムマシンで未来に行って1等の当選番号を見る、とか?

父   あんまり現実的じゃあないなあ。

理香  じゃあお父さんの現実的な答えは?

父   宝くじ1億枚をすべて買う。

理香  えー、それだって現実的じゃないよ。

父   でも確実な方法ではあるだろ。

理香  そんなお金があるなら宝くじを買わずに別の何かを買ったほうがいいわ。そもそも宝くじを買う必要なんてないじゃない。

父   ごもっとも(笑う)。

    宝くじの話はあくまでも例えだけど、奇跡的に思えるような出来事も、考え方によってはそうでもない、ってことを言いたかったんだ。

理香  私がお父さんと会えたのも?

父   そう。離れ離れになった父と娘、そうなった原因となったもの、それらを扱うブログのグループ、お互いに情報を知りたいという気持ち。その他もろもろが組み合わさると、理香と自分の接触する確率はずいぶん上がるんじゃないかな。

理香  そんなもんかな。

父   まあ実際にコンタクトしてもお互い気づくまでに時間がかかったし、場合によってはやりとりをやめてしまったかもしれないから、会えない確率だってゼロじゃあなかっただろうがね。

    さて、オヤジのつまらない話は終了。高校生活は楽しいか?

理香  十分に楽しんでるよ。部活もやってるし。

父   そうか。

理香  バスケ部だって話してなかったっけ?

父   すごいな。お父さん運動音痴だったのに。

理香  レギュラーではないけどね。

父   あいつは反対しなかったのか?

理香  お母さんのこと?気にしてたら何にもできないじゃない。

    小学校卒業と同時に宗教とは決別しました! まあ自然消滅って奴?

    中学でも陸上やってて、疲れたって言って夜の集会をサボって、日曜も練習に出かけて集会奉仕不参加を貫き通したの。お母さんも最初は猛反対してたけど、2年経ったらあきらめたみたいであまり言わなくなった。もちろんその代わりに何もしてくれなくなったから、ご飯も自分で作ったし、自分の服の洗濯はやったし、部活絡みのことは友達に助けてもらったりで何とした。

    高校に入ってからはお母さんもずいぶん柔らかくなって、普通に話したり出かけたりするようになったけどね。

父   ・・・がんばってきたんだな。

    で、あいつはどうしてる?

理香  相変わらず紙様は信じてる。基本的に集会や奉仕中心でやってるから派遣社員だけど、それなりの生活はできてるかな。私もアルバイトしてるし。

父   そうか・・・

理香  そうそう、この前なんかお坊さん連れてきて「救世主の再来だ!」なんて紹介したのよ、笑っちゃう。

父   JWって仏教系だったか?

理香  お坊さんの名字が「穂生(ホバエ)」さんだからって、安易すぎる。

    その前はSNSの救世主もどきとカラオケに行ったり(笑う)。

    わけわかんないこと結構やってるけど、お母さんはお母さんで楽しくやってるみたい。

    お父さんはまだ一人なの?

父   ああ、まあ、ね。

理香  彼女の一人くらいいないのー?

父   努力はしてる。

理香  お父さん、それなりにいい男だと思うけど。娘のひいき目かな。

父   それなりね(笑う)。

    これまでに何人かとおつき合いはしたんだが、あまり長続きしなくてね。

理香  もしかして、お母さんにまだ気があったりして?

父   それはない。

理香  即答(笑う)。

 

父   最近気がついたんだ。

理香  ?

父   お父さんさ、人を愛する方法を学ばずに生きてきたんじゃないかって。

理香  ・・・?

父   あいつとつき合ってた時、俺はあいつが喜んでいるのを見て「あいつは俺と一緒だったら楽しいんだ」って勘違いしてた。あいつもその頃あまり自分の言いたいことを言わなかったし、俺も空気読まないから、自分の好きなことばかりを押しつけて、あいつが本当に楽しんでたか、喜んでたかを察しなかった。相当不満が溜まってたのかもな。

    理香が生まれてからも面倒なことはあいつに押しつけてばかりで、あいつをねぎらおうとはしなかった。そして不満が爆発したあいつと俺はケンカばかり。挙句の果てにあいつは紙にすがりついた。

    あの時俺があいつに少しでも優しくしていたら、今のようにはなっていなかったんじゃないかって。

    こんなこと言ったところで今さら遅いんだけどな。

理香  お母さんに話してみたら、今の気持ち。

父   ・・・いいよ。もう会いたくないし。俺にも悪いところがあったとしても、理香を自分のエゴで苦しめたあいつはやっぱり許せない。

理香  ・・・・・

父   理香、俺と暮らさないか?

理香  え、それってプロポーズ(笑う)?

父   いやそうじゃなくて、親子として。お父さんと一緒に自由に生きないか?

理香  ・・・・・それなら家を出ていく時に連れ出してくれたらよかったのに。

父   ・・・・・

理香  なーんて、そんなこと思ってません。私、今の生活それなりに満足してるんだ。高校生活も楽しいしバイトも面白いし。

    それにお母さん、多分私がいないとダメだから。

    お父さんは一人で10年生きてこれたんだから、もうちょっとくらい我慢できるでしょ。

    さっきお父さんが話してくれたこと、大切なことだと思う。そしてそれをいつも頭に留めておいたらお父さん、お母さんの時と同じことを繰り返さないんじゃないかな。

父   ・・・・・

理香  それに着替えを覗かれたりしたらイヤだし。

父   いやそんなことしないって!

理香  どーかなー(笑う)。

父   理香は強いな。

理香  お父さんとお母さんの娘ですから。

父   俺とあいつの娘、ね。

理香  ・・・・・お父さんが家を出る少し前のこと、覚えてる?

    お母さんが私にムチを与えようとした時、お父さん私を守ってくれたよね。

    「理香を傷つける奴は母親だろうが紙様だろうが許さない」って言って。

    お母さんがあきらめて部屋を出ていってもずっと抱きしめてくれてた。

    あの時のことだけはなぜかずっと覚えてる。

父   だけど結局俺はそこから逃げた。

理香  お父さんは知らないだろうけど、あれからお母さん、理不尽なことで私を叩くようなことはしなくなったの。会衆の人たちからいろいろと言われてたけど。

父   ちょうど虐待死の事件が起こった頃か。あいつが、笑っても怒っても全然表情が変わらなくて、なんだかまずい、と感じてた時だったかもしれない。

理香  ありがとうお父さん。あの時のことがあったから今私がこうやって生きていられるのかもしれないし、お母さんが長老に従うだけのガチガチ信者にならなかったのかもしれない。

父   いや、自分が情けなくなるからありがとうなんて言わないでくれ。

    俺は理香にどれだけ謝罪してもしきれない。

理香  お父さんももう謝らなくていいよ。またお父さんと話せるようになっただけで十分。謝罪の言葉なんかより、もっと聞きたいことや話したいことがあるんだから。

父   ・・・そうだな。

 

 

    時の過ぎるのを忘れて語りあう父と娘。

 

 

理香  そろそろ帰らなきゃ。お母さんにはバイトだって伝えてるからあんまり遅くなれないんだ。

父   そうだ、理香にプレゼントを。

 

    父、大きな紙包みを理香に渡す。

 

理香  うわ、でか。 開けていい?

父   いいとも。

 

    包みを開けると、中には不細工なカバのぬいぐるみ。

    しかも両手で抱えられないほどの大きさ。

 

理香  なに、これ?

父   小さな頃、理香が欲しがってたぬいぐるみ。

理香  ・・・(お父さん、私が今いくつか分かっててやってる???)

    ありがとう!でもちょっと大きすぎて持って帰るの大変だから、しばらくお父さんが預かっていてくれない?

父   え、そうなの?

理香  今度会う時に持って帰るから。

父   ああ、まあ、わかった。

理香  じゃあね、お父さん。今日は楽しかった。

父   明日もバイトか。

理香  ううん。

父   明日が理香の誕生日だから本当は明日に会おうとしてたんだけど何かあるのか?

理香  彼氏とデート♡

父   !!!!!

 

    理香、声をかける間もなく駆け去る。

    それを呆然と見送る父。

 

 

・・・・・・その晩・・・・・・

 

 

    理香がダイニングでTVを観ているところに母が帰宅する。

 

理香  おかえりー。

母   理香、終わりはすぐ来るわ!!

理香  へー、何億年後?

母   すぐよ、すぐ!

 

    母、レジ袋に入った何かを理香の前に差し出す。

 

理香  なに、これ?

母   月末に公開の映画「アルマゲドンX」と「がつ屋」のコラボで売り出した、終末限定商品、その名も!

理香  春曲丼。

母   えー、知ってたんだ。

理香  知らなくても分かるわよ、安直なネーミングだろうって。

母   反応悪くてつまんないなあもう。

    というわけで最後の晩餐します!奮発していつもより高いワイン買ってきちゃった。ちょっと理香見て見て、このこだわり。

理香  (春曲丼を見て)ああ、長い春巻を曲げて丼に収めてる・・・

母   春曲丼の看板に偽りなし、でしょ?

理香  ハルマキマゲドンじゃない!

母   おいしければいいのー。理香も食べる?

理香  ちょっともらおうかな。 あ、意外といける。

母   世界の終わりにふさわしい食事だわ。

理香  はぁ・・・明日も早いんだからワインはほどほどにね。

    私朝練があるからもう寝る。

母   明日の朝には楽園で目覚めることになるわ。

理香  あ・し・た・も・ぜ・っ・た・い・し・ご・と・に・な・る・か・ら・ね。

母   わかってるー、おやすみ。

 

    理香、苦笑しながら

 

理香  おやすみなさい、よい終末を。